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yohm's blog

プログラミングや研究などについて

Modeling the Role of Relationship Fading and Breakup

“Modeling the role of relationship fading and breakup in social network formation” という社会ネットワークのモデル化についての論文を書きました。 この論文はPlosOneに掲載され、United Academics というサイトでも紹介されました。

人間社会は各個人が別の人とコミュニケーションをとりながら成り立っています。そのような人間の交友関係のネットワークは固定化されたものではなく、リンクやノードが新たに作られたり消されたりして形を変えながら存在しているようです。例えば、友人に誰か別の友人を紹介してもらったり、学校に誰かが転校してきたりしたときにはネットワークにあらたにリンクが作られるでしょう。

一方でネットワークは成長するばかりではなく、リンクの消滅も我々の周りにはよくみられます。例えば、仲のよいカップルが突然喧嘩別れすることもあるでしょうし、古くからの友達とだんだんと疎遠になっていって連絡をいつの間にかとらなくなることもあるでしょうし、転校や転職などで友人がいなくなることもあるかもしれません。このように様々な形で人間関係のリンクは切れることがあります。

これまで個々のリンク形成過程と全体のネットワーク構造の関係についてよく研究されて来ましたが、リンクの消滅がネットワーク全体に対して与える影響というのはあまり調べられて来ませんでした。この論文では「リンクの切れ方が社会ネットワーク全体の特性をどのように変えていくか」という問題について理論的に調べました。

具体的にいうとWeighted Social Networkモデルという社会ネットワークの特徴を再現するモデルをベースとして、”Link Deletion (LD)”, “Node Deletion (ND)”, “Link Aging (Aging)” という3種類のリンクの切れ方のモデルの性質を調べました。

LDは「カップルが突然喧嘩別れする」というような唐突にリンクが切れる状況をモデル化しており、具体的には各タイムステップごとに各リンクがある確率で切れる、というモデルです。 NDは例えば「誰かがいなくなる」というような状況に対応するモデルで、各ノードがある確率で取り除かれる、というモデルです。 Agingは「だんだん疎遠になっていく」という状況を記述しています。時間とともにリンクの重みが指数関数的に減衰し、閾値を下回ったところでリンクが切れるというモデルです。 この3つのリンクの切れ方は出来上がるネットワークにどのような差異を生み出すでしょうか?

実は研究を始めた当初は、適切に時間スケールさえ合わせればリンク断絶のモデルを変えても結果としてできあがるネットワークに大差はないだろうと考えていました。 もともとこのモデルではNDがリンク削除のメカニズムとして提唱していたのですが、共同研究者の一人がこのモデルが好きじゃないと言い出したのでしぶしぶAgingモデルを試したのがこの研究のきっかけになりました。Agingモデルにすると想像以上に顕著な差異が出てきて、しかも詳細に調べてみるとこの差異は社会ネットワークの特性とも深く関連していることがわかりました。

3つのモデルで出来上がるネットワークを可視化すると以下のようになります。

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まず気づくのは、Agingモデルではノードが互いに強く結合した幾つかのグループに分割されます。このような密に結合したグループはネットワーク科学でコミュニティと呼ばれています。Agingモデルではコミュニティ内部は密につながっている一方で、コミュニティ間は非常に弱いリンクでまばらにつながっているだけです。例えて言えば外部とはあまり交流をしない村社会のような「閉じた」ネットワーク構造です。このような特徴はモジュラリティという指標で評価することができ、Agingで形成されるネットワークは非常にモジュラリティが高いネットッワークになります。

それとは対照的にNDやLDでは局所的にコミュニティ構造を持っていますがAgingほど極端ではなく、コミュニティ外部ともそれなりの頻度でリンクを作っており、より「開かれた」ネットワークを形成していると言えるでしょう。

Agingのネットワークのモジュラリティが高い理由は社会ネットワークの特徴と関係しています。 社会ネットワークにはリンクのトポロジーと重みの間に関係があることがわかっており、コミュニティ内部に重みが大きいリンクが多く存在し、それらのコミュニティは互いに弱いリンク(「弱い紐帯」)で繋がれているという特徴があることが知られています。 Agingはだんだんとリンクが弱くなるモデルなので、コミュニティ間をつなぐリンクが優先的に切られます。コミュニティ構造がAgingによってさらに強調される形となり、結果としてモジュラリティが非常に高い「閉じた」ネットワークが出来上がります。一方でLDやNDではコミュニティ外部のリンクだけを優先的に切るというメカニズムがないため、結果としてより「開かれた」ネットワークになりやすいのです。論文にはより詳細な話が書いてありますが話の本質はここに書いてある通りです。

では、どのモデルがより現実に近いのでしょうか? 我々は、シミュレーション結果に対して様々なネットワーク特性(次数分布、ノード強さ分布、コミュニティサイズ分布など)を現実の携帯電話の通話記録のネットワークと比較しました。 その結果、定性的な比較ではありますが、LDが最も現実を再現し、Agingの結果とは明らかに符合しないことがわかりました。

現実の社会ではLD、ND、Agingのように様々なリンクの切れ方が混在していると思われますが、その中でも主要な役割を果たしているのは、Link Deletionでモデル化されるようなリンクが突発的に切れるようなイベントなのかもしれません。 これまで社会におけるリンクの形成過程については実データからも研究が詳細に行われてきましたが、リンクの切れ方についての実データを利用した研究は比較的少ないようです。本研究で得られた示唆が更なるデータによって検証されることを期待したいと思います。